高額ながん治療費の負担を軽減する「高額療養費制度」とは
日本では、公的な医療保険制度により、病期やケガで治療を受けた場合でも治療費の総額の3割(70歳未満場合。年齢や所得によって変わります)を自己負担すれば済むことになっています。しかしながら、がんの治療は手術や放射線治療といった大きな費用のかかる治療が必要となり、治療期間も長く続く場合が多いため、3割だとしても治療費の負担が高額になることがしばしばあります。
そうした高額な医療費の負担を軽減させるために、公的医療保険制度の一部に「高額療養費制度」という仕組みが設けられています。
高額療養費制度は日本で公的な健康保険に加入している人なら誰でも(基本的に国民全て)が利用できる制度です。高額療養費制度を利用すれば、自己負担額を大幅に軽減することができますので、必ず利用しましょう。
高額療養費制度の概要
①同じ月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分のお金がのちほど払い戻しされます。
②自己負担額の毎月の上限(自己負担限度額)は、所得や年齢に応じた計算式で決まります。還付請求をすることで、上限を超えた分のお金が戻ってきます。
【毎月の自己負担額の上限の目安】
※上限額の詳しい計算式はこちらを参照ください。
③制度が利用できるのは、公的保険を利用できる治療(通常の病院等での治療)のみです。公的保険の使えない治療の費用については、高額療養費制度の対象になりません。
・保険適用外の治療(自由診療)
・先進医療にかかる費用
・入院時の食事代
・差額ベッド代
など
④柔道整復師、あんま、はり等で支払った自己負担額で公的保険が利用できるものを計算式に含めることができます。
⑤高額療養費で払い戻しを受けるには、ご自身が加入している公的医療保険に、高額療養費の支給申請書を提出(または郵送)する必要があります。自分がどの医療保険に加入しているかは、保険証にてご確認ください。申請に必要な書類は、自分が加入している医療保険の窓口にお問い合わせください。
以上が高額療養費制度の概要です。
例えば、60歳で年収600万円の患者さんの、ある月の治療費合計が100万円だとすると、その患者さんの自己負担額は治療費の3割の30万円です。医療機関の窓口では一時的に30万円を支払います。ただし、この方の自己負担限度額は上の表より8万円強ですから、高額療養費制度を利用して還付請求を行えば、限度額を超えた約20万円強が払い戻しを受けることができるのです。
さらに負担が軽減される3つのしくみ
高額療養費制度を使っても、負担が大きくなる場合、さらに以下のような3つのしくみが設けられています。
1)世帯合算
医療費の月々の上限額の計算は、同じ健康保険に加入している家族の医療費※1を合算できます。また、ひとりが2つ以上の医療機関や薬局に支払った医療費も合算※2して、高額療養費の払い戻しを受けることが出来ます。
※1. 同じ健康保険に加入している方であれば、同じ家に住んでいなくとも合算対象になります。逆に一緒に住んでいても、別の健康保険に加入している場合には、合算対象になりません。
※2. 69歳以下の場合には、1回につき自己負担額が21,000円以上の場合のみ合算できます。
2)多数回該当
過去1年以内に、すでに3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目以降は自己負担額の上限が下がり、負担がさらに軽減されます。
【多数回該当の場合の自己負担上限額】(H30年8月以降※1)
※1. H30年7月までの上限額詳細は、厚生労働省のウェブサイトなどでご確認ください。
3)限度額適用認定証
高額療養費の請求には「高額療養費支給申請書」を作成するほか、添付書類を整える手間もかかります。さらに、高額療養費が戻ってくるのは、手続きをしてから2〜3ヶ月程度あとになります。一時的にではあるにせよお金が戻ってくるまで治療費を自分で立て替えなければならないという経済的な負担があるのです。
こうした患者さんの不便さ、一時立替の負担を緩和するために便利な仕組みが「限度額適用認定証」です。
がん治療のように、高額な入院治療を行うことが当初よりわかっている場合、「限度額適用認定証」を事前に入手し、医療機関にこの認定証を提示すると、高額な自己負担を一時的に立て替える必要がなくなります。
高額療養費制度利用の際の注意点
制度の利用にあたり注意すべき点は、自己負担額の上限は1ヶ月単位(月初1日から月末日)で計算するということです。
例えば、抗がん剤の治療を30日間行って自己負担額が10万円のケースで見てみると、治療を1日からはじめて同月30日で終了した場合は、高額療養費制度でお金が戻ってくるのに、治療が2ヶ月に渡ってそれぞれ15日間行われた場合は、自己負担額が上限に達しないため、制度が利用できません。
治療を行うタイミングは、なかなかコントロールできませんが、可能ならば同じ月の中で治療ができるよう主治医の先生に相談してみるとよいでしょう。主治医の先生も、治療に影響しなければ協力してくれるはずです。
また、高額療養費の申請ができるのは、治療を受けた翌月から2年間の間ですので、忘れずに申請を行いましょう。
治療費に関する相談も受けてくれるがん相談支援センター
全国のがん診療連携拠点病院に設置されている「がん相談支援センター」では、専門家が、がん患者さんの治療に伴う様々な悩みの相談に乗ってくれます。相談できるのは治療のことだけに限らず、治療費に関する相談も可能です。
高額療養費制度についても、よくわからない場合にはここで相談すれば手続きの方法など教えてくれますので、利用しましょう。
最寄りの「がん相談支援センターを探す」
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