部位よりも進行度で大きく変わる、がんの治療費
「がんの治療にはお金がかかる」というのが一般的なイメージですが、必ず高額な治療費がかかるというわけではありません。
例えば胃がんの場合、早期に発見できて内視鏡での切除ですめば、公的医療保険により、自己負担金は8万円ぐらい。早期がんで治療を受けた患者さんの中には、「思ったより治療費がかからなかった」と言う人もいます。一方で、がんが進行すると大掛かりな手術や長期の入院が必要になったり、また放射線や抗がん剤による治療も受けたりすることになります。
このように、がん治療は、早期がんか進行がんかによって、行う治療の内容が大きく変わってきますので、治療にかかる費用についても、一般的にがんの種類よりも進行度(病期=ステージ)に大きく影響を受けます。
ここでは、早期がんと進行がん、さらに早期がんを治療してその後再発した場合の3つのパターンで、治療の大まかな内容と治療費の構造を見てみましょう。
早期がんの治療費
早期がんの治療では、手術や放射線治療などを中心に、根治を目指した治療*が行われます。治療の結果が順調であれば、どの時期にどのような治療を行うかおおよそのスケジュールが決まってきますので、治療費についても予想できます。
*注)根治治療とは完全に治すことを目的とする治療です。但し、この治療を受けたからといって治ること再発しないことが100%保証されているわけではありません。
早期がんの治療費の構造は、3つのブロックに分けて理解するとよいと思います。
(1)手術や放射線治療の治療費+入院費
最も大きな費用がかかるのが手術や放射線治療等を行う初期の治療費です。これに加えて、入院・検査等に要する費用がかかります。入院費は当然ですが入院日数が長くなるほど高くなることと、個室や少人数の部屋を希望したときにかかる差額ベッド代などによっても費用が変わります。
*注)差額ベッド代:正式には「特別療養環境室料」といい、一般の病室以外に、より快適な入院生活がおくれるように設置された病室に、患者の希望によって入る場合にかかる費用です。健康保険が適用される入院料とは別に料金がかかり、全額患者の自己負担となります。
(2) 退院後開始される再発予防の治療費
医師の診断により、再発の可能性が懸念される場合には、術後に再発予防のための治療が行われ、その費用が必要となります。再発予防抗がん剤の場合、治療期間は通常数ヶ月程度ですが、乳がんなどのホルモン治療では5〜10年に及びます。ただし、早期がんの場合、再発予防の治療を行わないケースもあります。
(3)退院後の定期検査費
治療後の経過や再発の有無をチェックする定期的な血液・画像検査等の費用が必要となります。一般的に5年間(乳がんなどは10年間)再発がなければ完治とみなされるため、その間は検査費用が発生します。
定期検査の頻度は、当初1ヶ月毎、それから3ヶ月に一度、その後半年に一度行えば十分であるといった説明が各診療ガイドラインではされています。ただ、実際には、退院当初は治療の経過が順調かどうかみるために、1週間あるいは2週間に1度受診し、問診を行うことが多いようです。
いずれにしても、再発がなければ、治療後は経過観察のみとなり、費用は大幅に軽減されます。
進行がんの治療費
進行がんの場合は、がんの状況や症状に応じて、効果のある治療をその時どきに行う方針で対応するために、いつどのような治療を行うという数年に亘る長期治療スケジュールを組むことが難しく、治療費がどの程度かかるかは個人個人で変わってくるのが実情です。当面実施する治療の順序・スケジュールを主治医より聴いて、ひとつひとつの治療費を確認せざるを得ません。
進行がんの治療費の構造は、大きく2つのブロックに分けて理解できます。
(1)抗がん剤や分子標的薬による治療費
進行がんで他の臓器に広がっていたり、転移したりしていると、手術などの局所治療は行わず、抗がん剤や分子標的薬といった全身的な治療が選択されます。抗がん剤による治療は、通常効果がある限りはそれを継続しますが、しばらく使用するとがん細胞が薬剤耐性を持ち、効かなくなることが多々あります。その場合、別の抗がん剤Bがあればそれに切り替え、効果がなくなればまた次の抗がん剤Cというように、効果が見込める治療がある限り継続していくため、治療が継続される限りは治療費が必要になります。
(2)治療中の定期検査費
治療の効果やがんの進行の有無をチェックするための、定期的な血液・画像検査等の費用が必要となります。
なお、上記の図にはありませんが、進行がんの場合、症状を和らげるための手術や痛みを抑えるための放射線治療を行うことが多々あります。進行がんではこうした費用もかさむのが実情です。
再発がんの治療費
当初、早期がんと診断され治療を行った場合でも、再発するケースがあります。全身にがんが広がっている可能性の少ない局所的な再発の場合、根治のための手術や放射線治療が可能であれば、まずそうした治療が行われます。しかし、再発後、根治のための手術や放射線治療ができない場合(他臓器へ広がったり、遠隔転移したりしているような場合)には速やかに抗がん剤治療に入るため、進行がんの治療費構造を考えることが必要になります。下図がそのイメージを示しています。
その他のリハビリテーションなどの費用
患者さんの状態により、治療中、治療後にはさまざまなリハビリテーションや日常生活の質を改善する作業が必要になります。
肺がん患者さんでは呼吸トレーニング、咽頭がんや食道がんの患者さんでは嚥下(えんげ)トレーニング等病状によって復帰のためのメニューが用意されていますし、乳がん、子宮がん、あるいは前立腺がん等でリンパ節を郭清(かくせい:リンパ節を取り去ってしまうこと)した患者さんの場合には、手足のリンパ浮腫予防・改善の対応が必要になる場合があります。
がん治療後のリハビリテーションの必要性については、患者さんや家族の間であまり認識されていないようです。急性心筋梗塞や脳梗塞では治療とともに退院後のリハビリテーションが必ず話題になるのですが、がん治療では治療法にばかり関心が集まっているところにも原因があるようです。がん治療も他の病気同様、身体に大きなダメージを与えるものが多く、速やかにリハビリテーションを行うことで治療後の生活の質が改善します。治療法同様、リハビリテーションについての情報も収集し、専門家の指導を受けて実行することが推奨されます。
こうした治療・トレーニングのすべてについて費用が発生しますし、中には公的保険が使えない場合もあります。例えばリンパ浮腫についてみると、リンパ浮腫に対する複合的治療料(スキンケア、リンパドレナージ、弾性着衣による圧迫療法など5種類の治療)について2016年に保険適用となりましたが、適用となる患者さんの条件が決められており、中には保険の対象とならない患者さんもいます。正確には医療機関で説明を受ける必要がある費用となります。