胃がんの治療選択肢
胃がんの治療は、がんの進行度を表す「病期(ステージ)」に応じて決まります。
遠隔転移がない場合は、内視鏡治療、もしくは手術(定型手術、縮小手術、拡大手術)となります。病期(ステージ)に応じ、手術後に再発予防の抗がん剤治療を併用することがあります。放射線治療は、胃がんの根治治療には殆ど用いられません。
内視鏡治療については、内視鏡的粘膜切除術(EMR:ループ状のワイヤーをかけて、ワイヤーをしぼり高周波電流を流してがんを焼き切る方法)と、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:高周波メスを使って、がんを剥離して切除する方法)が普及しています。ESDは、EMRでは切除が困難な部位やサイズの大きながんに行われますが、いずれも早期がんの場合の治療法です。
Ⅰ期の早期胃がんの治療では、開腹しての手術のほかに、腹部を切らずに(開腹せずに)、腹部に4箇所程度の穴をあけ、そこから腹腔鏡やメスを入れて患部を切除する腹腔鏡手術も適用になります。ただし、腹腔鏡による手術は経験数が少ないと術後合併症が多いという報告もあり、技術的に習熟した医師による治療を受けることが重要です。
胃がんの治療費と自己負担額
以下では、進行度に応じた3つの胃がん治療の事例を取り上げ、その概算治療費と自己負担額の目安について解説します。
なお、がんの治療内容の大枠は、がんの種類にかかわらず共通しており、必要な治療費も、がんの種類よりもその進行度に大きく影響を受けます。早期がん、進行がんで見たがん治療の概要や治療費の構造については、まずこちらのページをご覧ください。→がんの治療費TOP
表記の「定期検査」は、手術や抗がん剤治療が終了した後に行うものを指しており、治療中に行われる検査等の費用は、治療費用の中に含めています。
差額ベッド代は一切含んでいません。
1 早期胃がん:内視鏡治療
一見転移がなく、手術が可能ながんであっても、検査などでは分からないごく微小ながん細胞が、既に他臓器に転移してしまっている場合があります。そうした場合、手術で目に見えるがんを取り去っても、時間を経て微小ながん細胞から再発してしまう可能性があります。
そこで、手術ができても、後々再発の可能性があると判断される場合には、全身的な治療である抗がん剤を、再発を予防する目的で行います。これが「術後再発予防のための抗がん剤治療」です。
内視鏡による治療費の総額は、治療に関わる検査費、入院費用を含めて26万円前後で、そのうち自己負担額は8万円です。今回の治療費計算では5日間入院することを想定していますが、日帰り手術を行う医療機関もあり、その場合にはさらに治療費が少なくなります。入院が1日長く、あるいは短くなる毎に総治療費(自己負担額ではなく)が2.5万円弱上下します。
内視鏡治療は早期胃がんへの適用であり、通常、手術後の再発予防のための抗がん剤治療は行いません。手術後の治療は定期検査のみです。その自己負担額は、初年度4万円、2年目以降は年3万円弱かかります。
2 早期胃がん:腹腔鏡手術
腹腔鏡手術では開腹手術の場合と比べて治療費がやや高くなりますが、高額療養費制度の利用により自己負担額を抑えることができます。自己負担額は初年度11万円、2年目以降は年間3万円程度です。入院期間は10日間で計算していますが、期間が1日長く、あるいは短くなる毎に総治療費が約2.5万円上下します。
3 胃がん:定形手術+術後再発予防抗がん剤治療
定形手術とは、主として治癒を目的とし標準的に施行される胃切除手術のことです。胃の2/3以上切除とリンパ節郭清を行います。
定型手術後に再発予防の抗がん剤治療を行う場合、手術・入院費用の部分については高額療養費制度が利用できます。しかし、手術後1年間にわたり行う抗がん剤治療の治療費*については、1ヶ月あたりの治療費自己負担額が限度額に達しない(※高額療養費制度ページ参照)ために、高額療養費制度の利用はできません。その結果として抗がん剤治療費の自己負担額は、92万円の3割負担である約28万円となり、初年度の自己負担額の総額は約43万円になります。なお、入院期間が1日長く、あるいは短くなる毎に総治療費は2万円程度上下します。
*注:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウムという抗がん剤を使用する前提で治療費を計算しています。
4 進行胃がん:抗がん剤治療
Ⅳ期の進行胃がんであっても、手術が可能な場合には手術(第Ⅳ期の手術としては、通常、拡大手術)が行われることがあります。拡大手術の場合、手術費用は定形手術より数十万高くなりますが、高額療養費制度を利用することで、患者さんの自己負担額は③定形手術の場合とほぼ同様となります。
また、第Ⅳ期の抗がん剤の治療費については、本サイトの「抗がん剤の治療費」をご参照ください。患者さんの体重や身長により抗がん剤の使用量が変わるため、同じ治療を受けてもその治療費には差が生じることに注意が必要です。
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参考文献
- ・日本胃癌学会編 胃癌治療ガイドライン【第4版】
- ・国立がん研究センターがん情報サービス それぞれのがんの解説「胃がん」