肺がんの治療選択肢
肺がんは、がんステージが初期のⅠAの段階で発見されれば、手術後の5年生存率は85%以上ですが、発見時点で手術できるケースは全体の3~4割で、残りは手術ができない進行がんとして見つかります。手術ができない場合は、抗がん剤と放射線療法で治療するのが基本です。
また、肺がんは組織の型によって、大きく小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分類され、この2つで治療方法も大きく異なります。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス
全体の85%を占める非小細胞肺がんは、さらに、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんの3つに分かれ、それぞれ肺がん全体の50%、30%、5%を占めます。非小細胞肺がんの治療は、早期がんであれば手術が第一選択となります。また切除手術に加え、レーザー治療、胸腔鏡下切除手術、放射線治療、重粒子線治療等と多様な選択肢があります。患者さんの状態により複数の治療選択肢から治療法を選べるはずです。一方、進行がんになると、放射線治療、抗がん剤治療、および両者を組み合わせた治療が主となります。
一方、小細胞肺がんは肺がん全体の15%と占める割合は少ないものの、増殖が早く、転移しやすい悪性度の高いがんです。しかし、抗がん剤や放射線治療が比較的効きやすい特徴があります。小細胞肺がんは、手術が可能な早期に発見されることは少なく、抗がん剤による治療が中心になります。
出典:がん治療新時代WEB 肺がん治療の最前線
肺がんの治療費と自己負担額
以下では、非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分け、いくつかの治療選択肢の概算費用と自己負担額の目安について解説します。
なお、がんの治療内容の大枠は、がんの種類にかかわらず共通しており、必要な治療費も、がんの種類よりもその進行度に大きく影響を受けます。早期がん、進行がんで見たがん治療の概要や治療費の構造については、まずこちらのページをご覧ください。→がんの治療費TOP
表記の「定期検査」は、手術や抗がん剤治療が終了した後に行うものを指しており、治療中に行われる検査等の費用は、治療費用の中に含めています。
差額ベッド代は一切含んでいません。
【非小細胞肺がん】
①早期非小細胞肺がん:胸腔鏡手術
胸腔鏡手術では手術の技術料が加算されるため、通常の開胸手術の場合と比べて手術の治療費がやや高くなります。ここでは10日間の入院を想定して計算していますが、入院期間が1日長く、あるいは短くなる毎に総治療費が2万円程度上下します。
自己負担額は、もっとも費用がかかる初期治療(手術+入院+治療中の検査)部分は高額療養費制度が利用できるため、初年度12万円、2年目5万円、3年目以降は毎年2万円程度です。
②早期非小細胞肺がん:重粒子線治療
標準治療は、手術(肺葉切除+肺門および縦郭リンパ節郭清)ですが、体への負担も大きく、高齢者や呼吸機能不良の場合、標準的な手術が困難なこともあります。その場合、次善の治療として原発腫瘍やその周りだけを切除する縮小手術が実施されることがありますが、それと同様に原発腫瘍のみを対象として放射線治療を実施することもあります。重粒子線治療を用いると、周囲の正常肺組織への線量を低減し、病巣のみに線量を集中させることが可能となります。
肺がんに対する重粒子線治療(先進医療)は、公的保険の適用となっていないため(18年5月時点)、自己負担が314万円と大きく、その他に入院に伴う保険診療の負担も発生します。ただし、民間保険の先進医療特約などに加入している場合は費用が補填される場合があるでしょう。3年目以降の定期検査の費用については、検査項目が減少し、かつ年2回の検査になることでさらに少なくなります。
③非小細胞肺がん:肺葉切除術+術後再発予防抗がん剤治療
肺葉切除手術後に再発予防の抗がん剤治療を行う場合、初期治療(手術+入院+治療中の検査)の費用については公的保険の高額療養費制度が利用可能です。自己負担額の合計は、初年度31万円、2年目以降は毎年6万円程度になります。ここでは入院期間を15日で計算していますが、入院期間が1日長く、あるいは短くなる毎に総治療費は約2万円程度上下します。
【小細胞肺がん】
④小細胞肺がん:化学放射線療法
「放射線化学療法」は、放射線治療と抗がん剤治療(1コース)を入院中に行い、その後1週間程度の入院による抗がん剤治療を繰り返し3コース行うものです。合計で4コースの抗がん剤治療となります。使用する抗がん剤は、肺がん診療ガイドラインで推奨されているシスプラチン+エトポシド併用療法で治療費計算を行っています。
上の図では、放射線治療+1コース目の抗がん剤治療の費用(92万円)、2・3・4コース目の抗がん剤治療が「抗がん剤費用(68万円)」として示されています。抗がん剤治療の費用は毎月23万円程度かかり、その自己負担額(3割負担)は毎月7万円弱となります。高額療養費制度が利用できるのは毎月8万円強以上かかった場合ですから、この制度が丁度使えない水準になります。また、入院期間が1日増減すると総治療費は2万円程度上下します。
なお、小細胞がんは脳に転移することがよくあるために、初期治療がうまくいった場合には脳に予防的に放射線照射を行う場合があります(すべての患者さんがこの治療を受けるわけではありません)。予防的全脳照射まで行う場合の治療費の自己負担額は1年目約39万円、2年目6万円程度となります。
⑤進行肺がん:抗がん剤治療
進行肺がんの抗がん剤の治療費については、本サイトの「抗がん剤の治療費」をご参照ください。患者さんの体重や身長により抗がん剤の使用量が変わるため、同じ治療を受けてもその治療費には差が生じることに注意が必要です。
- 参考文献
- ・日本肺癌学会編 肺癌診療ガイドライン2017年版
- ・国立がん研究センターがん情報サービス それぞれのがんの解説「肺がん」