「ロボットががんの手術を行う」というSFのような話。実はこのロボット手術は既に実用化されており、日本でも広がりつつあります。2018年には保険治療として受けられるがんの種類の幅も広がったロボット手術の費用について見ていきます。
ロボット手術とは
正式には、「ロボット支援下内視鏡手術」といい、手術支援ロボットを使って、医師が手術を行う術式をいいます。
現在医療現場で使われているのは、アメリカの企業が開発したダヴィンチ(da Vinci® サージカルシステム)というロボットで、日本では2009年に医療機器としての認可を受け、2018年現在、全国で約300台が導入されています。
ダヴィンチには4本のロボットアームが付いており、1本には内視鏡カメラ、残り3本は鉗子を装着します。これらを患者さんの体に挿入し、手術室内に置かれたコンソールと呼ばれる操縦席に座って、医師が3Dモニターで患部の立体画像を見ながら遠隔操作でロボットアームを操作して手術を行う仕組みです。
ロボット手術の特徴とメリット
手術はがん治療の基本ですが、患者さんの体に大きな負担をかけることから、できるだけその負担を減らしながら手術精度を高めることが目標となっています。
患者さんへの負担を減らす方法として、体を大きく切り開かずにすむ胸腔鏡手術や内視鏡手術が開発されましたが、これらは一定の経験と技術を必要とし、通常の開腹手術よりも難易度が高いという課題もあります。
ロボット手術のカメラとアームは、数センチ程度の小さい切開部分から体に挿入できるため、出血など患者さんの体への負担が少ない利点があります。また、ロボットアームはコンピューター制御で非常に精度が高く細かい作業が可能です。カメラは視野を10倍以上に拡大した3D映像となっており、良好な視野のもと、震えのなく微細な動きができる鉗子の操作が可能となっています。
例えば前立腺がんの手術の場合、手術後の尿失禁や性機能障害などからの回復が早く、治療成績は開腹手術と比較し遜色がないといいます。
ロボット手術の治療費
ダヴィンチによるロボット支援手術は、2012年4月には前立腺がん摘出術において、また2016年4月に腎臓がん手術(小径腎細胞癌の腎部分切除術)で保険適用となっています。そして、2018年4月に新たに以下の12件が保険適用となりました。
- 胸腔鏡下縦隔悪性腫瘍手術 −縦隔がん
- 胸腔鏡下良性縦隔腫瘍手術 −縦隔良性腫瘍
- 胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術(肺葉切除又は1肺葉を超えるもの)−肺がん
- 胸腔鏡下食道悪性腫瘍手術 −食道がん
- 胸腔鏡下弁形成術 −心臓弁膜症
- 腹腔鏡下胃切除術 −胃がん
- 腹腔鏡下噴門側胃切除術 −胃がん
- 腹腔鏡下胃全摘術 −胃がん
- 腹腔鏡下直腸切除・切断術 −直腸がん
- 腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術 −膀胱がん
- 腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がんに限る)−子宮体がん
- 腹腔鏡下膣式子宮全摘術−子宮体がん
※縦隔とは、心臓や気管などがある、左右の肺の間の空間で、特殊な腫瘍ができること
がある。
たとえば胃がんに対するロボット支援手術の場合、保険適用前の患者さんの治療費負担は200万円ほどでしたが、保険適用による3割負担なら50~60万円程度まで減ります。また、
さらに保険診療では高額療養費制度が利用できるため、実質の負担額は、収入額にもよりますが多くの場合、10万円程度となります。
これまでは、先行して保険適用が認められた前立腺がんなど泌尿器科における実績が大半を占めていたダヴィンチのロボット手術でしたが、今回の保険診療拡大により、より広いがん治療において利用される可能性があります。