高額になった医療費を取り戻せる「医療費控除」とは
負担した医療費が、1年間の合計で10万円以上になった場合、所得税が軽減されて税金が戻ってくるのが「医療費控除」です。確定申告で手続きを行えば、税金が還付される形で、支払った医療費の一部を取り戻すことができます。
保険診療かどうかに関わらず、治療のための費用が医療費控除の対象に
医療費控除の対象としては、以下のようなものが認められます。
【治療・検査のための費用】
- 医師、歯科医師による治療の費用
- 自由診療(全額自己負担の治療)や、先進医療の費用
- あんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の費用
- 保健師や看護師等による療養上の世話に対する支払い
- 患者の通院費(交通費)や医師に往診してもらう送迎費
- 入院の際の部屋代、食事代
- 治療のためのコルセット、義手・義足・松葉づえ、補聴器、義歯などの購入費
- 骨髄移植推進財団に支払う骨髄移植のあっせん料、日本臓器移植ネットワークに支払う臓器移植あっせん料 など
【医薬品購入の費用】
- 医師の処方箋をもとに調剤薬局で購入した医薬品の購入費用
- 街の薬局で購入したかぜ薬・胃腸薬などの一般医薬品の購入費用 など
【出産に関する費用】
- 妊娠中の定期検査や出産費用
- 助産師による分娩の介助の費用 など
【介護に関する費用】
- 介護福祉士などによる喀痰吸引及び経管栄養の対価
- 介護老人福祉施設や介護老人保健施設に支払った施設サービス料 など
これらを見ても分かるとおり、対象となるものは、公的保険が使えるかどうかに関わらず、医療費控除は可能であることがわかります。がん治療の先進医療や自由診療を受けた場合、自己負担額が大きくなることがありますが、これらも医療費控除の対象となりますので、確定申告を行って少しでも費用負担を減らしたいものです。
逆に、以下のようなものは医療費控除の対象となりません。
- 美容整形の費用
- 乳房再建術の費用(術式によって対象となる場合があります)
- 健康診断や人間ドックの費用(異常が見つかって治療が必要になった場合は、医療費控除の対象になります)
- 予防注射の費用
- 医師への謝礼
- 美容のための歯科矯正や歯石除去の費用
- 自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車料金
- 入院時の身のまわり用品の購入代
- 治療ではなく、病期の予防や健康増進に用いるビタミン剤やサプリメントの購入費用
- 治療ではなく、疲れを癒やしたり体調を整えるためのマッサージ等の費用 など
上記のように、治療に要した費用ではないと控除の対象にはならず、病気の予防目的に使うものも控除できません。
ただ、控除できるかどうかケースバイケースのものもあります。例えば、乳房切除後の再建や頭頸部がん切除後の顔面再建等の費用はどのような取り扱いになるのでしょうか。乳房再建を例にとると、形状の再建として手術前の元の状態に近づける場合は医療費控除の対象となります。一方、この際ついでに豊胸まで行うということになれば控除対象外となる可能性があります。
一般的に、再建にあたり自分の組織(皮膚、 腹部や背部の筋肉、あるいは腹部の脂肪等)を使用する場合には、公的保険も利用可能で、かつ医療費控除の対象になりますが、対象となる再建方法に関し、治療費の額、公的保険の利用、医療費控除の有無等について、事前に医療機関と確認してください。
医療費控除の計算
医療費控除の計算は以下のように行われます。
- 1年間(1月〜12月)の医療費の実質負担額が10万円を超えた場合、超えた分の金額をその年の所得から差し引くことができます(つまり、支払う所得税を計算する元となる「所得金額」が下がるので、税金が安くなります)。
- 年間の所得金額が200万円未満の人は、「所得金額✕5%」を越えた場合となります(例えば年間所得が100万円の方は、5万円を超えた分が控除されます)。
- 医療費の計算には、扶養している(同一家計の)配偶者、子供、両親などの治療に要した費用も含めることができます(加入している健康保険が違っていても、合算できます)。
- 医療費の計算は、あくまで自分が実際に負担した実質金額です。高額療養費制度を利用して治療費が返ってきた場合や、民間の医療保険、生命保険等に加入していて保険金を受け取った場合には、医療費の計算から差し引かなければなりません。
- 医療費控除は、申告し忘れても過去5年間にさかのぼって申告することが可能です。
医療費控除のための具体的な手続き
医療費控除は税金を取り戻す仕組みですので、控除を受けるためには確定申告を行うことが必要です。サラリーマンの場合、会社が年末調整を行ってくれるため、確定申告にあまり縁がない方もいるかもしれませんが、医療費控除を受けるためにはサラリーマンであってもご自身で確定申告を行う必要があります。医療費が高額になった翌年は忘れずに確定申告を行いましょう(確定申告は、毎年2月16日〜3月15日の間に、前年分の申告を税務署に提出します)。
申告手続きを進めるにあたり、いくら実際に税金を支払ったか、治療費を負担したかを証明する書類を残しておかなければなりません。具体的には、
- 給与の源泉徴収票(サラリーマンの場合)
- 支払った医療費の明細書(自分で作成)
が必要になります。2017年分の確定申告から、医療費の領収書の添付は必要なくなりましたが、必要となった場合のために手元にはしばらく保管しておきましょう(5年間の保存義務あり)。
また、家族の誰が申告しても構いませんので、収入が高い家族が申告したほうが戻るお金も増えて、お得です。
医療費控除できる額と戻ってくる金額のイメージ
最後に、医療費控除できる額と実際に戻ってくる金額のイメージについてです。
控除できる額は、いままでの説明でも触れたとおり、次のような式で表すことができます。
医療費控除額=支払った医療費総額 - 生命保険金等の受取・補填額あるいは高額療養費制度による治療費の返戻額 - 10万円(所得が200万円未満の方は所得の5%)
※控除できる金額の上限は200万円
医療費控除の手続きを行って実際に戻ってくる税金の額は次の式で計算します。
実際に戻ってくる金額(還付金)= 医療費控除額 × 所得※税率
※注)給与額面額ではなく、さまざまな控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除等)を差し引いた後の課税所得金額。
例えば、所得税率は、課税所得額が300万円の人であれば10%、500万円であれば20%、1,000万円前後であれば33%です。
仮に、1年間の医療費が40万円だった場合、医療費控除額は<40万円―10万円=30万円>となり、課税所得金額が300万円の人なら✕10%で3万円、課税所得金額500万円の人であれば✕20%で6万円が戻ってくると期待できます。
がんの治療を受ける場合、高額療養費制度を利用したとしても、年間の医療費が数十万円になることは珍しくありません。民間のがん保険や医療保険からの給付がない場合になどには、特に頭に入れておくべき制度といえるでしょう。
参考:国税庁ホームページ(医療費控除)