2018年4月、がんの放射線治療のひとつである陽子線治療と重粒子線治療において、新しく前立腺がんなどで公的保険での治療が受けられるようになりました。これまでは先進医療としておよそ300万円かかっていた患者さんの自己負担は、これにより大きく減少します。ここでは、粒子線治療とその最新の費用について解説します。
粒子線治療とは
がんの3大治療は手術、放射線治療、抗がん剤治療です。このうち、放射線治療はがん細胞に放射線を照射することでダメージを与え、治療を行おうとするものです。しかしながら、正常細胞に放射線があたるとその正常細胞もダメージを受けてしまうため、いかにがん細胞だけにピンポイントで照射できるか工夫がされてきました。
放射線治療で使用される放射線は、X線やガンマ線などが一般的ですが、これらを体の外から照射すると、体の表面で最もエネルギーが高まり、体内に進むに従って力が弱まってしまう弱点がありました。
そうした弱点を補うために開発されたのが粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療)です。陽子線や炭素イオン線といった粒子線は、ある一定の深さで止まり、そこで最大のエネルギーを放出する特徴があります。最もエネルギーが強まる部分を病巣部にあわせて照射することで、病巣の手前と奥にある正常な組織へのダメージを減らしながら治療することができるのです。
陽子線治療
粒子線のひとつ、陽子線を使った放射線治療です。陽子線は線量の集中がよく、通常のX線の1.1倍のエネルギー量を持っています。頭蓋底腫瘍、頭頸部がん、肺がん、肝細胞がん、前立腺がん、小児がんなどで臨床使用されています。
2018年8月現在、国内で陽子線治療が受けられるのは以下の14施設です。
- 北海道大学病院 陽子線治療センター(北海道札幌市)
- 札幌禎心会病院 陽子線治療センター(北海道札幌市)
- 南東北がん陽子線治療センター(福島県郡山市)
- 筑波大学附属病院 陽子線医学利用研究センター(茨城県つくば市)
- 国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)
- 相澤病院 陽子線治療センター(長野県松本市)
- 静岡県立静岡がんセンター(静岡県駿東郡)
- 名古屋陽子線治療センター(愛知県名古屋市)
- 大阪陽子線クリニック(大阪府大阪市)
- 福井県立病院 陽子線がん治療センター(福井県福井市)
- 兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市)※重粒子線治療も可能
- 兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター(兵庫県神戸市)
- 岡山大学・津山中央病院共同運用 がん陽子線治療センター(岡山県津山市)
- メディポリス国際陽子線治療センター(鹿児島県指宿市)
重粒子線治療
放射線の1種である粒子線の中で、陽子線よりもさらに重い重粒子線を利用した放射線治療です。治療では炭素イオン線が使われています。重粒子(炭素イオン)線を光の速度の約70%まで加速させて、体の内部のがんに照射します。
2018年8月現在、国内で重粒子線(炭素イオン線)治療を受けられるのは以下の6施設です。
- 群馬大学医学部附属病院 重粒子線医学研究センター(群馬県前橋市)
- 放射線医学総合研究所(千葉県千葉市)
- 神奈川県立がんセンター 重粒子線治療施設(神奈川県横浜市)
- 大阪重粒子線センター(大阪府大阪市)
- 兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市)※陽子線治療も可能
- 九州国際重粒子線がん治療センター(佐賀県鳥栖市)
粒子線治療の治療費
粒子線治療はこれまで公的保険の適用になっておらず、臨床試験、または先進医療として行われてきました。先進医療として治療を受けた場合の患者自己負担額は、陽子線治療が約276万円、重粒子線治療は約315万円という高額な費用がかかりました。
2018年4月、これら粒子線治療が前立腺がんなど一部のがんで、保険診療となりました。
小児がんなどが2016年に先行して保険適用となっていましたが、今回、新たに前立腺がんや頭頚部がんが保険診療として認められたのです。
又は限局性及び局所進行性前立腺癌(転移を有するものを除く。)
又は限局性及び局所進行性前立腺癌(転移を有するものを除く。)
自己負担が3割負担の患者さんでは、これまでの4分の1から6分の1程度の負担になりますが、さらに保険診療では高額療養費制度が利用できるため、実質の負担額は、収入額にもよりますが多くの場合、8万円から17万円程度となります。
ただし、これら以外のがんでは従来と変わらず、300万円前後の治療費自己負担が必要です。民間医療保険で、先進医療特約に加入している場合には給付が出る場合がありますので、加入の保険会社に確認してみるとよいでしょう。