2014年に世界初の免疫治療薬として承認され、話題となったオプジーボ。一方で、日本の医療財源が破綻しかねないといわれるほどの高額な治療費(薬価)でも話題となりました。患者さんとしては、もし自分がこの薬を使ったらいくらかかるのか気になるところだと思います。オプジーボの最新の価格、患者さんの自己負担について見ていきます。
ノーベル賞を受賞した、免疫チェックポイント阻害薬とは
2018年10月に発表されたノーベル医学・生理学賞を受賞したことで、がんの免疫治療薬「免疫チェックポイント阻害薬」に改めて注目が集まりました。
私たちの体に備わっている免疫は、体外から侵入した細菌やウィルス、体の中に発生したがん細胞などを攻撃・排除して体を守ってくれていますが、過剰に働くと正常な細胞まで攻撃して傷つけてしまう場合があります。そうならないように、ブレーキとなる仕組みが備わっているのですが、がん細胞は自分の身を護るために、このブレーキを悪用して、免疫の働きを抑制してしまいます。免疫チェックポイント阻害薬は、このがんによるブレーキを外して、免疫が正常に働くようにする薬です。有効な治療がなかった進行がんの患者さんに対して高い有効性が示され、これまでになかった第4の治療として大きな期待を集めています。
免疫チェックポイント阻害薬のひとつである抗PD-1抗体薬「オプジーボ®」は、日本において世界で初めて皮膚がん(メラノーマ)の治療薬として承認された後、2015年には非小細胞肺がん、2015年には腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、2017年には頭頸部がん、胃がん、2018年には悪性胸膜中皮腫と適用を拡大していき、さらに今、食道がん、肝臓がん、卵巣がん、大腸がんなどでも治験が進んでいます。数年のうちに、更に多くのがんで使えるようになると思われます。
免疫チェックポイント阻害薬オプジーボの薬価
このように、幅広い部位のがんで使えるようになることは、治療を待つ患者さんにとっては大きな希望となる一方、1年間で数千万円もかかるという高額な治療費用を心配する声も多く聞かれます。患者さんやご家族にすれば、この薬を使いたいけれどそんな費用は払えないと心配される方もいることと思います。
実際、免疫チェックポイント阻害薬を使った場合、患者さんはどのくらいの治療費を負担する必要があるのでしょうか?
まずはオプジーボの薬価を見てみましょう。「薬価」とは、病院で処方される薬の公定価格のことです。国(厚労省)が価格を決め「薬価基準」と呼ばれる価格表に載せます。保険医療では、医師はそのなかから薬を選んで処方することとなります。薬価はその薬の総額のことですので、患者さんが支払う負担額ではありません。3割負担の場合は、薬価✕30%を薬代として患者さんが支払うことになります。
オプジーボは2014年に初めて承認されたとき、対象となるのはメラノーマという皮膚がんだけでした。対象人数が少ないため、薬価は非常に高額に設定され、例えば体重66kgの人(日本人の男性の平均体重)が1年間投与した場合は月におよそ300万円、1年間では3,800万円もの薬価となっていました。
そして翌2015年12月に肺がんの治療薬として適応拡大されます。肺がんの患者さんは多いので、この薬価で多くの患者さんが使うと日本の医療財政が破綻すると騒ぎになり、2017年2月の薬価改定時に当初の半額に引き下げられました。
その後、腎細胞がん、頭頸部がん、胃がんなど更に適用が広がり、それに応じて薬価も引き下げられ、2018年11月現在では当初の4分の1程度の年間1,090万円ほどとなっています。
オプジーボ薬価改定の推移
薬価改定時期 | 薬価 | 年間の薬価※1 | 薬価改定時に適応となっているがん※2 |
---|---|---|---|
14年7月承認 | 約73万円/100mg | 約3,800万円 | ①メラノーマ(皮膚がん) |
17年2月改定 | 約36万5千円/100mg | 約1,900万円 | ①メラノーマ(皮膚がん)、②非小細胞肺がん、③腎細胞がん、④ホジキンリンパ腫 |
18年4月改定 | 約28万円/100mg | 約1,450万円 | ①メラノーマ(皮膚がん)、②非小細胞肺がん、③腎細胞がん、④ホジキンリンパ腫、⑤頭頸部がん、⑥胃がん |
18年11月改定 | 約1,090万円 | 年間の薬価※1 | ①メラノーマ(皮膚がん)、②非小細胞肺がん、③腎細胞がん、④ホジキンリンパ腫、⑤頭頸部がん、⑥胃がん、⑦悪性胸膜中皮腫 |
※1.体重66kg(198mg/回)の人が1年間26回投与したとして計算。
※2.使用条件があり、そのがんの全ての患者さんが使用できる訳ではありません。
※3.2018年11月より、オプジーボの用量はこれまでの体重1kg当たり3mgから、体重に関係なく1回240mgの固定用量に変更されました。
治療費の自己負担額
それでは、患者さんがオプジーボを使用したときの自己負担額はいくらになるのでしょうか。
日本ではご存知の通り、国民皆保険制度によって、保険診療であれば医療費の自己負担額は、大部分の方(小学校入学後から69歳)が3割負担となっています。
年齢 | 医療費の自己負担割合 |
---|---|
小学校入学前 | 2割 |
小学校入学後〜69歳 | 3割 |
70〜74歳 | 2割(現役並み所得者は3割) |
75歳以上 | 1割(現役並み所得者は3割) |
ただ、オプジーボの薬価は前述の通り、仮に1年間使用した場合、約1090万円となりますので、3割負担だとしても300万円以上かかることになってしまいます。
しかしながら、当サイトでもご案内している通り、こうした高額な医療費の負担を軽減させるために、「高額療養費制度」という仕組みが設けられています。高額療養費制度は日本で公的な健康保険に加入している人なら誰でもが利用できる制度です。
高額療養費制度を利用すれば、オプジーボを1年間使用した場合でも、大多数の方については自己負担額60万円強(年収、年齢により変わります)未満で済むはずです。
まとめ
いかがでしょうか?決して安い金額とは言えないまでも、さまざまなニュースなどで騒がれている超高額なイメージよりは安く済むということがご理解いただけたかと思います。免疫チェックポイント阻害薬は、多くの患者さんに希望を与える画期的な薬であることは間違いなく、さらに対象となる患者さんが広がることが望まれます。
参考文献
厚生労働省ホームページ:中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会総会)第389回
用法用量変化再算定品目について